なぜ今「シニアペット」なのか日本で暮らす犬と猫の数は、2024年時点で犬が約679.6万頭、猫が約915.5万頭と推計されています。十年前と比べると犬は二割以上減少し、猫も増加基調から横ばい〜微減に移りつつあります。背景には少子化や共働き世帯の増加、集合住宅の規約、ペット可物件の家賃上昇など複数の社会要因が存在します。一方で飼われている犬猫の過半数が七歳以上となり、平均寿命は犬14.9歳、猫15.9歳へ延伸しました。これは獣医療の進歩、フード品質の向上、完全室内飼育の普及などが寄与した結果です。頭数は減少するのに一頭あたりの年間支出はむしろ増えています。ペットフードの高機能化や医療費の上昇だけでなく、“老後資金”として介護サービスやサプリメント、見守りデバイスに投資する飼い主が増えているためです。高齢ペットは慢性疾患や関節トラブルを抱えやすいため、未病段階からケアを始める家庭も増加しており、シニア向けビジネスの裾野が拡大しています。頭数減少の将来シミュレーションペットフード協会が公表する過去11年の新規登録数を単純線形で外挿すると、犬は2030年に600万頭弱まで減少すると見込まれます。猫も過去の緩やかな増加が頭打ちになり、880万頭前後で縮小に転じるシナリオが想定されます。飼育頭数が減るということは総市場が縮小するようにも見えますが、実際には単価アップと高付加価値化が市場を支えています。「元気な若犬・若猫に必要なもの」から「慢性疾患や介護を抱えるシニアを支えるもの」へ需要の重心が移っているのです。メーカーやサービス事業者は、この重心移動を見越して商品設計やマーケティングを組み直す必要があります。シニアペットビジネスの主要領域介護用品失禁対策のおむつやライナー、歩行補助ハーネス、車椅子、床ずれ防止マットなど、かつては動物病院で取り寄せるしかなかったアイテムが量販店やECで手軽に手に入るようになりました。シニアペット用品の世界市場は年8〜9%で伸びており、2030年には24億ドル規模と予測されています。今後、本格的なシニア犬・大型犬の介護需要に合わせた吸収量・形態の最適化、レンタルを含むサブスクモデルといった追加提案が求められます。サプリメント国内ペットサプリ市場は2021年で73億円規模、過去5年で20%近い伸びを示しました。従来は動物病院専売の商品が中心でしたが、大正製薬、ヤクルトなど人向けヘルスケア企業がペット市場に参入し「薬局・量販店で買えるペットサプリ」が増えています。最近注目される成分は次の三つです。コンドロイチン・グルコサミン関節ケアの定番素材。体重増加による膝関節症の多い中型・大型犬に必須とされます。MCTオイル・DHA認知症予防や脳機能サポートとして注目。猫の認知機能不全(CDS)の相談件数は毎年増えており、需要が拡大しています。CBD分離不安やてんかんの緩和目的。米国ではサプリに加え、CBD入りトリーツやクリームも登場しています。ケアサービスペットの高齢化は「飼い主自身も高齢」という二重構造を生みます。散歩や投薬、排泄介助など肉体負担が重い作業をアウトソースできる訪問ペット介護士が都市部を中心に増えつつあります。自宅での看取りを望む飼い主向けに、獣医師による在宅緩和ケアを提供する「Lap of Love」(米国)は、2025年現在で300名以上の獣医師を抱え、年間5万件を超える訪問実績を持ちます。日本でも終末期の苦痛緩和を専門とする往診獣医が少しずつ増え、ペット版在宅医療の形が整いつつあります。さらに、飼い主の入院や高齢化で飼育継続が困難になったペットを預かる老犬・老猫ホームが日本全国で100施設を突破しました。獣医師常駐、リハビリ専門スタッフ配置、ターミナルケア対応など、人の介護施設と同等のサービス水準をめざす施設が増えているのが特徴です。見守りIoTシニアペットは体温や呼吸数、夜間の鳴きなど細かな変化が急増します。そこで注目されるのがウェアラブルデバイスです。首輪型の「PetVoice」は9軸センサーで活動量を測定し、非接触で体温を推定。異常を検知するとスマホにアラートを送ります。さらに「Tractive」は2025年モデルで心拍・呼吸数をリアルタイムモニタリングし、クラウド上で獣医師とデータ共有する仕組みを導入しました。体調変化を早期に察知でき、獣医療費の抑制にもつながると期待されています。近い将来、ウェアラブル→診療予約→処方食・薬の自動配送までをワンストップで提供するエコシステムが立ち上がると見込まれます。新規参入で狙える四つのニッチ介護用品サブスク高額な車椅子やハーネスを月額制・メンテナンス込みで提供し、オンラインで装着指導動画を配信します。パーツ交換やサイズアップ保証を付ければ大型犬でも導入しやすくなります。専門EC+遠隔相談シニア向けフード、サプリ、介護グッズをパーソナライズして提案し、動物看護士・栄養管理士がチャットでサポートします。購買データと健康データを連動させることでLTVが向上します。シニア飼い主支援モデル高齢者施設と連携し、「短期預かり→訪問ケア→終生預かり保証」に加えて、飼い主が亡くなった後の譲渡までワンストップで請け負うモデルです。行政との協定や寄付スキームを組み込むと持続性が高まります。データ連動サブスクIoT首輪・給餌器・見守りカメラから得たデータをクラウドで解析し、獣医師が異常を検知。必要なときだけ往診や専門食の配送を行う「保険+サブスク+オンデマンド医療」モデルが期待されます。2030年以降を見据えた将来展望動物医療業界ではAI画像診断や遠隔聴診器が実用化段階に入りつつあり、将来的には家庭用ウェアラブルデバイスと連動したAIドクターのファーストオピニオンが普及すると想定されています。また、ゲノム解析コストの低下により、犬猫の遺伝病リスクを出生直後にスクリーニングし、パーソナライズドサプリやフードを処方するサービスも海外で試験運用が始まりました。こうした技術革新は「高齢化による症状を受け身で治療する」フェーズから、「発症前の予防・予測に基づき生活を最適化する」フェーズへのパラダイムシフトを促します。2030年代には、シニアペット市場は単なる“介護・終末期ビジネス”ではなく、ウェルビーイングを科学するライフサイエンス市場へと進化するでしょう。そこで鍵となるのは、データプラットフォーマー、獣医師、フードメーカー、IoTベンダーが垣根を越えて共創するオープンイノベーションです。まとめシニアペットビジネスは「減る頭数・増える支出」という二つのトレンドの交点にあります。高齢ペットは生活の質(QOL)維持にお金と手間がかかる一方、飼い主は家族同然の存在として最後まで寄り添いたいと考えています。この強い動機が市場を支え、介護用品、サプリ、ケアサービス、ペットテックといった多領域で新たな需要を生み出しています。成功の鍵は専門性とユーザーフレンドリーさの両立です。獣医療・介護経験・ITテクノロジーなど複数の専門を束ねつつ、購入や利用プロセスを直感的に設計できる企業が有利になります。社会課題の解決とビジネス成長を両立できるブルーオーシャンが、まさにここに広がっています。今こそ貴社の強みを掛け合わせ、シニアペット市場への本格参入を検討してみてはいかがでしょうか。参考文献・出典当記事で使用したデータは、あくまで複数の調査結果・報道を組み合わせて総合的に引用しています。特に金額規模(円換算)や前年比などは為替レートや発表タイミングで変動しますので、更新タイミングにご注意ください。一般社団法人ペットフード協会「令和6年全国犬猫飼育実態調査」経済産業省「ペットブームは頭打ち?」健康産業新聞「高齢ペット増加で市場拡大(特集/ペットサプリ)」大正製薬「わんビオフェルミンS」ヤクルト「MediSuppli」Lap of Love Veterinary HospiceOldies ClubTractive